紫の上幻想 ~息子は母親の理想か

男の人には「若い(幼い?)女を手に入れて、自分の思うように教育して、理想の女にしてみたい」という願望がある、ということを聞いたことがあります。
実際にどのくらいそう思っている男性がいるのかは定かではありませんが(意外に少ないかもしれない。面倒くさそうだしね)、その発想の中に、紫の上を手元で育て、やがて美味しくいただいた光源氏の存在があることは間違いないと思います。
(ただ、ネットで調べると、この光源氏の行為は「ロリコン的」文脈で取られることもあるんですね。後の女三の宮のこととかを考えると、それもありかもしれない(笑))

そして実は女性の中にも「紫の上みたいに、素敵な男性に育てられてみたい」という願望は間違いなくあると思います(マイフェアレディとか、ですね)。
そんな育てられたい女と育てたい男。
しかし……世の中そんなにうまくいくものなのでしょうか。そんなことを思うわけです。
もし願ったように人が育つものならば、この世の中はもっといい男といい女であふれていてもいいような気がします。
だって、子供に対して、「つまらない人間になってほしい」と思って育てる親なんて、いないでしょうし(そりゃそう思わない親くらいはいるかもしれませんが……)、出来るものならば素敵な人間になって欲しいと思って育てているはず、と思うからです。

また一方、じゃあ「理想」とはなんぞや、と言う問題もあります。
あなたは自分の理想を100%描くことが出来ますか? たいていの場合、「好きになった人が理想」っていうこっちの方が多いのではないでしょうか。
じゃぁ、手元に引き取って育てるときの理想って……と、考えた時思い浮かぶのは「藤壺の宮」の存在です。
人の理想、というものはそれだけではなかなか単独で存在し得ない。けれど、それは実は手に入れたくても入らなかった人かもしれない。

この場合、ほぼ100%に近い形で理想を描くことが出来るかと思われます。「その人だったらどうしたか」を考えればいいわけですから。
しかし。ここでさらに問題があります。人には気質というか、性質というか、そういうものがあるわけで、誰でもいいから引き取って、理想の通りに育てようと言ったところで無理があるのはやむを得ません。
ここでも源氏物語はちゃんと裏づけをしてあるわけです。それが「血のつながり」です。

Aさんという理想の女性(男性でもいい)と出会ったが、結ばれること無く終わってしまい、その人は今でも理想として輝いている、としましょうか。Aさんのような人を育てて我が物にしたい、と思った時に、まったく他人のBさんの子供を育てたってだめなわけです。

そんなわけ、ないよなー、という話が、源氏の中では実に緻密に組み立てられ、源氏の世界を構成しているのだな、とつくづく思います。

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